お母さんへ。───ごめんね、母の日なんて忘れていたよ。
僕と母(いつも「お母さん」と読んでるので以降そう記述しよう)は、500キロ以上離れたところで生活しています。
だから会えるのは、一年に、2回くらいかな。
平均寿命とか鑑みると、あと母の顔を見られるのは、40回もないかもしれない。
たった40回。
子供の頃は、毎日会っていたのにね。
40回もないなんて、到底信じられないけど、本当はもっともっと少ないと思う。
男はみんなマザコンだと言われているけど、自分も絶対にそうだと思ってたけど、実際はそうでもなかったみたい。
実際、思い出すことなんてめったにないし、特に心配もしていない。
まあ、身体の丈夫な人だから、安心しているのかもしれないけど、お年寄りはね、突然、ということも多々あるだろうに。
日々の忙しさがそうさせているのかもしれません。
わざとなのかもしれませんが。
お母さんは「グループホーム」という名の施設に入所しています。
若年性というよりは少し歳をとっていたけれど、おそらく平均よりは若い年齢でアルツハイマーになってしまいました。
それほど重症ではないけれど、同じことを何度も言うし、何度も電話してきたりしたし、冷蔵庫に同じものが何個も入っていたりしました。
一人で暮らしてたので、火元とか戸締まりとか心配で、何度も何度も説得して、半ば強制的に、施設に入ってもらいました。
この病気は、治ることはないそうで、ただ少しずつ悪化していくだけ。治療とはそのスピードを抑えるだけ。
悲しいけど、それが現実でした。
少しずつだんだんと、自分の記憶、思い出が消えていくって、どんな気持ちなんだろう。そのことすら分からなくなっているのかもしれませんが。
同じような環境にある、僕よりも少し歳上の人に訊いてみたことがあります。
何か買ってあげたとしても、すぐに忘れてる。無理して先月来たのに、ぜんぜん来ないとか言い出す。
そんなの悲しくないですか?
一生懸命してあげたのに、見返りを求めてるわけじゃないけれど、感謝もされず、逆に憎まれ口を叩いたりする。
そんなの悔しくないですか?
その人からは、少しだけほっとする話を聞けました。
自分が赤ちゃんだった頃のことを思い出してみようよ、という話でした。
すぐに泣く、すぐに忘れる。
ただ食べて、ただ寝てるだけ。
なんの感謝もしない。自分勝手に生きていた。
でも、母親は、ちゃんと世話をして育ててくれてた。根気強くね。
多分、無償の愛情ってやつで。
その恩返しってことじゃないのかな? 今度はこちらの順番。
母親の苦労に比べれば、ぜんっぜん、楽だと思うよ。
なんとなく上手く文章にできないけど、そんな感じの話をされました。
その時の自分にはとても助かった記憶があります。
今年の母の日を契機に、もう少し、お母さんのことを考えようと思いました。
それから、あともうちょっと会いに行く機会を増やしてみようかと思います。
柄にもなく、カーネーションでも送ってみようかな。
そのうちに会いに行ったとき「どちら様?」と言われちゃうかもしれないけれど。
その時は、
「新しく来た施設の職員です。お見知りおきを!」
って笑って言えるように強くなろう。
気にしない。気にしない…。
ではでは。
今週のお題「おかあさん」